復刻『週刊 岡庭昇』

〜岡庭昇を因数分解する〜

第42回 2017年12月11日

 

こんにちは、岡庭野野花です。

 

師走に入って、気になるニュースが飛び込んできました。

 

A

トランプ大統領の発言ですね。

 

B

なんと、エルサレムイスラエルの首都にしてアメリカ大使館を置くと言い、米議会は1995年にイスラエルの米大使館移転を求める法律を制定……

 

A

歴代米政権は「安全保障上の問題」として、執行を大統領令で延期してきましたが、トランプは自分の支持基盤をつなぎとめるため、選挙公約を守るのパフォーマンスとしてエルサレムの首都認定を行なったのでしょう。

 

B

これもまた「9.11」以降の社会状況を引きずるものかもしれません。

 

野野花:

とにかく、北朝鮮とは一色即発の緊張状態です。世界の平和が、一国の大統領によってバランスを崩し、一気に不安定な方向へと向かい始めています。

不安定な危うさは、「9.11 の時より増しているように感じます。

 

『帝国の暗闇から』を読み進めると、「9.11」の時の状況が綴られていました。

 

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 P 14

哲学者スラヴォイ・ジジェクもまた、「9.11テロ」を体験して、その直後『「テロル」と戦争』と一気に書き下ろした。その原題『<現実界>の砂漠へようこそ!』は、映画『マトリックス』のセリフから取られている。

 同書の中で、たとえば《然り----攻撃者たちの文化は死の病的文化である。それは暴力的な死に己の生の頂点的な充足を見いだす態度ともいえるだろう》(長原豊訳)というように、いくら逆説をふんだんに含むとはいえ、ジジェクもまた、テロに何らかの可能性を認めるわけではない。だが、それを「悪」の一言で済ませ、設えられた「悪」の正当化へ連続させるような「政治」とは決定的に異なるのである。

 それはひとつは、本来ユダヤ教徒の一右翼勢力にすぎないイスラエルは、このテロを契機として高まる自己絶対化の風潮の得意がっていると、こんどは伝統的な反ユダヤ主義を掻き立てることになるだろうという指摘である。

 

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野野花:

前回、「9.11」を発端とするイラク戦争は、2011年「イラク戦争終結宣言」をオバマ前大統領が出して終結したとお話をしました。

でもこれは、大統領の支持基盤である保守派やキリスト教福音派への受けを狙っての宣言だったようです。

 

A

今回の宣言に対して、国際社会からの非難は大きいです。パレスチナ解放戦線のアッバス議長の立場をなくして、アメリカの最も重要なアラブの友好国は、自分たちの助言を無視したトランプの決断のおかげで、お尻に火が付くことになりました。

 

B

トランプの決定は、中東に駐在するアメリカの外交官や民間人の安全も脅かすでしょう。中東が一気に不安定化しかねない状態です。本当に心配。

 

A

一方で9日にイラク軍は、イスラム原理主義過激組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦が完了して、「イラク全土をISから解放した」と宣言しました。「原理主義」という考え方は、日本人にはまったく馴染みはないけれど、決してイスラムに限ったものではないのです。

 

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『帝国の暗闇から』を読み進めましょう。

P118からの「第4章 左翼原理主義」は、特に興味深い内容です。

 先年のアフガン侵略で、アメリカが(そしてそれに追随する日本のマスコミが)盛大に罵倒したのがイスラム原理主義だった。女性が肌をわずかにでも出したり、高等教育を受ける権利や、職業に就くことも禁じられているという事実は、確かに彼らが民主主義に反する分かりやすい事例であり、盛んにその点でのプロパガンダがなされた。

 

 キリスト教原理主義

 

 だが、第三世界への侵略と支配を積極的に推し進めるブッシュ・ネオコン政権は、みずからは妊娠中絶に反対し、進化論を否定したり、白人至上を主張する野蛮なキリスト教原理主義者をその中心的な支持基盤にしているのだから呆れる。誰にとっても愚者であることが明らかなブッシュが、それでも権力を持ち得るのも、この信者6000万人ともいわれるアメリカの超右派=原理主義キリスト教のお陰なのだ。

 

 坪内隆彦の優れた問題意識を持つ『キリスト教原理主義』は、19973月に刊行されているが、2004年段階でのイラク侵略戦争の本質をすでにいいあてている。

 彼はクリントンを沈黙させた右派政治家に触れて《ヘルムズの国連批判はブキャナンの国連批判とぴったりと共鳴している。ブキャナンは「国連のグローバリズムとそれにもとづく新世界秩序はアメリカの主権を脅かすだけだ」と断言している。

 

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野野花:

私たちはトランプの激しい言動のみにとらわれがちですが、共和党の大きな強力な支持基盤には世界を単純な善悪で塗り分けて理解をしてしまうキリスト教原理主義があることを今改めて理解するべきです。

こうした一方的な価値観で「善」「悪」で二分されることによる分断が起こっていることも。

 

次回は、このようなことも踏まえて、戦争がどのように引き起こされるのかを『帝国の暗闇から』から紐解きたいです。

 

赤いツバキに冬を感じています。

 

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