第46回 2018年1月15日
こんにちは、岡庭野野花です。
編集スタッフが古本屋さんで入手した『帝国の暗闇から』には、父のサインがありました。今は古本もamazonで入手できますが、著者から読者へと、手渡すっていいですよね。
今日はまず少し時間を巻き戻してみます。2002年5月8日に、北朝鮮からの亡命者5人が中国の日本国総領事館に駆け込みを画策、失敗した出来事を覚えていらっしゃるでしょうか?
A:
あ、はい。思い出しました。中国人民武装警察部隊に取り押さえられた事件ですね。この時、総領事館の敷地内に無断で足を踏み入れて、逮捕された亡命者が北朝鮮へと送還される可能性があって……
B:
日本総領事館の敷地に入った中国武装警察官に対して、副領事の宮下謙が、亡命者の取り押さえおよび敷地立ち入りへの抗議を行わず、武装警官の帽子を拾うなど友好的な態度に出た映像が、日本のテレビで報道されたのを覚えています。
A:
日本と大韓民国における批判を呼んだという事件でした。この問題は、本来無断で総領事館に中国人民武装警察部隊が踏み込んだことの問題と、亡命した北朝鮮人民の強制送還との話が混ぜ合って、メディアが毎日取り上げていたんです。
私もよく覚えていますが、この出来事について、『帝国の暗闇から』で、父は書いていました。
読んでみましょう。
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P87
第2節 帝国の傲慢、帝国の欠乏 より
日本という国の権力意志
それも当然ではあるが、次いで中国政府が彼らを第三国経由で韓国に送るとともに、この話題はあっというまに終息した。この国はいつもそうだ。考えることもないまま瞬間湯沸かし器みたいにいきり立ち、こんどは何も終わっていないのにきれいに忘れてしまう。まったく情報の出し方ひとつで、どうにも操ることができる民衆だと痛感する。
従ってこの話題は本質的には、まったく問われることがなかった。じつは極めて重要な出来事であり、日本の詐術的な官僚行政の、ある種本質を示している。それゆえ、この問題を蒸し返すことにする。
結論を先取りすれば、これは日本という国の国際的な対外態度に潜む、恐ろしいほどの認識の欠如であり、それがただの駄目さ加減ではなく、植民地を有した帝国としての当時を反省したくないというところに、意図してその理由を発生させているという事実である。
まず、中国が国際慣行に反することで、日本の主権を侵害したことは明らかである。そのことに間違いはないが、その自明な事実に含まれた多くの背景がある。
たとえば、この場合、北朝鮮と中国はグルだという決め付けが我々にはあった。そしてアメリカに肩入れした開戦当事者のごとき気分があって、いやが上にもけしからんという盛り上がりがあった。後日これは、2002年の後半の話題を独占する「拉致」問題に結び付く。この辺り、「9.11以降」のこの1年に限っても、状況はどこか偶然にしては、整然とまとまりすぎていないかとも思うがそれはひとまず措く。
冷静に考えて現在の中国が、北朝鮮と運命共同体だという認識をしているだろうか。それはあまりにも無邪気な先入観ではないだろうか。
要するに、総合的に判断すればこの「映像つき亡命」は、アメリカ、日本、中国共同のいわば八百長であっても何ら不思議はないのである。
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A:
当時、私も瞬間湯沸かし器で、操作されていたんだと反省します。
B:
反省するとともに、考えを深めるきっかけになりますね。
野野花:
父はこの後も続いて綴っています。
戦後日本は、現在南北朝鮮の分断のプレ朝鮮戦争とも言える済州島の「4・3」虐殺や、台湾で起こった「2・28大虐殺」など、封印され切った事件をまったくなかったことにしている日本という国について。
私は、今の日本の日本政府の、なんだか良くわからない曖昧さに通じている気がしています。
散歩の途中にツバキの蕾を見つけました。