復刻『週刊 岡庭昇』

〜岡庭昇を因数分解する〜

第68回 2018年10月1日

こんにちは、岡庭野野花です。

 

父が漱石とつなげて触れている荻原朔太郎について、みなさんはご存知でしょうか。

 

A:

夏目漱石は、1867年2月9日(慶応3年1月5日)生まれ、1916年(大正5年)12月9日没。荻原朔太郎は、1886年明治19年)11月1日生まれ、1942年(昭和17年)5月11日没。生きた時代が重なっていますね。

 

B:

萩原朔太郎って大正から昭和にかけて活躍した歌人だという印象でした。

 

A:

群馬県の開業医の息子として生まれたけれど医者は継がずに、子どもの頃から病弱だったこともあって孤独を好むタイプだったようです。一人でハーモニカ手風琴などを楽しんだとのこと。小学校を卒業して、従兄弟に短歌を教わって与謝野鉄幹主宰の『明星』に短歌が三首掲載されて、石川啄木らと一緒に「新詩社」の同人となったそうです。学校へ行くと言って家を出ても、学校へは行かずに野原で寝転んだり、森や林の中を歩きまわったり、学校へ行ったとしても授業は上の空。結局、中学で落第。学校を転々として、人生がまったく定まらない日々を送っていたようです。

 

B:

なんて自由人なこと! 急に親しみが湧いてきました。

 

野野花

父は、朔太郎について、このように書いています。

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P37

ちなみに朔太郎の親子関係は、そのまま明治という神話の典型でもあった。父は、東大医学部第一期卒業生という、新時代を担うエリートだった。強い生活者であり、社会的成功者だった。大阪出身だが、卒業後前橋に移って旧家老の娘を嫁にもらい、地元で名士として扱われる開業医だった。それに対して朔太郎は道が定まらぬ道楽息子で、近所隣に嘲られる存在だった。その負い目をそのまま帝国への、言葉による反逆に転化し得たとき、彼の自我はやっと定まった。

それは同時に体制の押しつける自明な日常、つまり自然を称するところのその実はとこ富国強兵の理論と正面から闘うことでもあった。朔太郎の、詩人としての闘いがそこに始まった。

 

A:

「闘い」なのですね。岡庭昇は、

〜もう一人の偉大な文学者が、「姦通」を媒介して日本の「近代」という体制的な虚構に立ち向かう。処女作『みちゆき』、後に『夜汽車』と改題されて、詩集『純情小曲集』に収められた。朔太郎は、この登場作を27歳で書いた。当時の詩人の出発としては例外的な遅さである〜

と書いていらっしゃいました。

 

野野花:

父は、この『みちゆき』のについて次のように書いています。

 

+++

P37

ただフィクションにせよ、姦通を媒介としたとき初めて朔太郎が、ブルジョアの道楽息子と近隣に謗られていた状態から、「詩」に突き抜けることができたということが重要である。それをいいかえるなら、言葉は「姦通」という「罪」を媒介して抵抗になり得、かつ表現たり得た。内なる帝国を探り当てた、ということでもある。

 

B:

朔太郎も漱石も、明治という時代において自分の居場所がなかったんですね。それを文学作品を通じて昇華していったということでしょうか?

 

A;

漱石の『道草』は、彼のその当時の生活がモデルだということです。

 

B:

つまり、漱石の人生もまたなかなか定まらなかったと想像できますね。

 

A:

漱石も精神的にとてもデリケートで、ノイローゼに陥り、それゆえに胃潰瘍を煩い、だんだん衰弱していって、ついには精神的なことが理由で若くして亡くなりましたから。

 

野野花:

「抵抗者・漱石」のページを開いて見てください。漱石の精神について、とてもわかりやすい記述があるんです。

 

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P38

ちなみに留学中の漱石のよく知られたノイローゼを、西欧コンプレックスからのみ説明することにわたしは批判的である。むしろそれは留学に伴って、維新後の日本の近代の体制が含む幻想に、漱石が覚醒したための「憂鬱」たったのではないか。

P39

明治の現世において、積極的に何ものかであることを望まないということは、明らかに意思的な抵抗たり得た。そこでは「参加」がそのままで、富国強兵の論理に「自然」に引き摺り込まれるというカラクリが否定された。

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A:

今の時代もまた息苦しいです。これからさらにもっと息苦しくなるでしょう。漱石や朔太郎が今生きていたら、きっとかのような作品を書いているでしょうね?

 

野野花:

私もそんなことを考えてしまいます。

次回は、「待ち伏せるもの 『道草』から『明暗』へ」の章を読み進めていきたいと思います。

 

あらあら、読むべき本が山積みになっていく秋ですね。

季節の変わり目、みなさまどうぞお体ご自愛くださいませ。

 

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